妊娠・出産のあれこれ

profile

池田 智明(いけだ ともあき)先生
「コウノトリの里」として有名な兵庫県豊岡市出身。
現在、三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座産科婦人科学教授。
三重大学医学部付属病院 副病院長。

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女性の晩婚化に伴い、晩産化も問題になっています。第1子出産時の平均年齢は今どのくらいなのでしょうか? また、妊娠しやすさも年齢とともに変化するのでしょうか?
現在女性が結婚する平均年齢が約29歳、第1子出産時の平均年齢が約30歳といわれています。大体35歳を境に妊娠しづらい体に変化します。年齢を重ねるとともに卵子の数も減っていきますが、流産などのリスクも増え、また年齢による子宮内膜の変化により着床しづらくなってしまうという影響も出てきます。胎盤は、赤ちゃんとお母さんが一緒に作る組織です。赤ちゃんの絨毛細胞というものが、お母さんの胎盤の中に入り込み子宮動脈の細い血管を大きくするのです。そして、赤ちゃんの細胞が血管の壁を食べて行くのです。そして大きく拡張する。それでできるのが、胎盤なのです。こうした過程がなかなか年齢を重ねるとともに上手くいかなってしまうのです。

更に、胎盤の形成が悪いことが妊娠高血圧症候群を引き起こす原因にもなってしまうということが最近分かってきました。妊娠高血圧症候群というのは、以前は妊娠中毒症と呼ばれていましたが、たとえば蛋白尿が出たり、体がむくんできたり、ひどい場合には、痙攣をおこしたり脳出血を起こしてしまうという症状を引き起こします。

しかし、現在は医療も発達し、自然妊娠以外の選択肢も増えてきていますよ。たとえば体外受精です。体外受精は、卵巣から採卵をし受精させて育ててから凍結し、それから子宮に戻しています。凍結している間に、子宮の状況に問題がある方は治療を行ったりして、子宮の中で育てられるようになってから戻していくのです。体外受精の補助金は国から出ていますので、情報を探してみることもよいと思います。

体外受精で生まれる赤ちゃんは年間約4万人にのぼります。約27人のうち1人、つまり1クラスに1人は自然妊娠以外で生まれてくる計算になりますね。ほとんどの人は子どもが産めるんですよ。「案ずるより産むが易し」です。

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体外受精による年齢別妊娠・流産率

産婦人科医として最近問題だと感じていることはありますか?
drikeda2最近赤ちゃんの出生時の体重が減ってきていることです。30年前の出生体重の平均が3.2キロであったのに対し、今は3.0キロ。先進諸国で出生体重が減っているのは日本だけです。なぜ200グラムも減ってしまったのか。

それは、晩産化により帝王切開が増えてきていることや、糖尿病などを持っている妊婦さんも増えてきていることが原因として考えられます。

しかし、これでは減った200グラムのうち、40~50グラム分しか説明できないようです。他に大きな要因は何かと言うと、女性の痩せの問題です。日本人の女性は昔よりも身長が伸びているのにも関わらず、体型を気にして摂取カロリーが少なく、体重は増えていません。胎児は母親の栄養をもらって育ちますので母親が必要なカロリー、栄養素をとることが必要不可欠です。急激な体重減少は、妊娠中の異常もそうですが、月経不順や骨粗鬆症にもつながってしまいます。骨というのは若いときにしっかり整えて、閉経後、おばあさんになってから徐々に減ってくる。若いときの蓄えがなければ当然減ってくるので。今の若い人の痩せの問題は、更年期・老年期の骨の健康にも影響してくるのです。

妊娠を希望する場合、生活のなかで気をつけるべき点はありますか?
健康な赤ちゃんを産むためには、特に鉄分、カルシウム、たんぱく質といった栄養も必要です。鉄分は日本人女性に不足しがちで、必要な摂取量の半分しか摂取できていないというデータもあります。お肉、ほうれん草、ブロッコリーといった鉄分を豊富に含む食材を積極的に食べるとよいと思います。また、カルシウム、たんぱく質といった栄養素は、赤ちゃんの体をつくっていくために必要な栄養素です。不飽和脂肪酸を含むお魚も体に良いですよ。妊娠を計画している方には、葉酸も神経管閉鎖障害発症リスク低減のために大切な栄養素です。バランスのよい食生活に気をつけて、葉酸のように食事から十分に摂りにくい場合は、サプリメントを上手に利用することも良いでしょう。

そして、最近若い女性の喫煙率が上がってきているようですが、喫煙は百害あって一利なし。ニコチンを摂取することで血流が悪化し、胎盤の機能が低下してしまうことにもなります。胎盤の状態は赤ちゃんに直接影響を与えてしまうので、喫煙することは、赤ちゃんの発育にも大きく関わってきます。喫煙されている方はすぐにやめましょう。受動喫煙も有害です。受動喫煙は、脳性まひや乳幼児突然死症候群にも関係があるといわれています。

読者の皆様に対して最後に一言アドバイスをお願いします。

drikeda3日本には産婦人科が町にたくさんあります。産婦人科というと敷居が高いと思われる方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、今は女性の産婦人科医も増えてきています。月経痛や月経不順など小さなことでも少し不安なことがあれば、是非一度、近くの産婦人科に足を運んでみてください。

日本の産婦人科にはいろんな機能があります。困ったときに、いわゆる駆け込み寺のようなものだったりですね。昔、夫にいじめられたりすると、尼寺や駆け込み寺に行って、そこで尼さんになるともう夫は入って来られないという、女性を守るところだったんですね。そういう機能、色んな機能が町の産婦人科にはあるので、かかりつけの産婦人科医を持ってください。私は、単に医学的アプローチといったハード面だけではなく、出産に当たっての不安や育児への不安に寄り添える産婦人科医を育てていきたいと思っています。